ビール酵母やホップを思わせるコーヒー豆があるのをご存じでしょうか。
本記事では、日々ハンドドリップを楽しんでいる「ぽる」が、「ALEプロセス」と呼ばれる発酵系の特殊精製で作られた大阪の老舗スペシャルティ専門店・TAKAMURA COFFEE ROASTERSの「コロンビア エールプロセス カンポエルモッソ」を紹介します。
品種は話題のピンクブルボン、生産者はコロンビア・キンディオ県の発酵研究家Edwin Noreña(エドウィン・ノレーニャ)氏という、珍しい要素が詰まったロット。HARIO V60(4:6メソッド)とHARIOスイッチ(浸漬式)の2手法で淹れ比べてみました。個人的には、2手法のうち角の取れた浸漬式のほうが好印象でした。この記事が発酵系コーヒーを試す際の参考になれば嬉しいです。
TAKAMURA COFFEE ROASTERS
コロンビア エールプロセス カンポエルモッソ
産地:コロンビア・キンディオ県
生産者:Edwin Noreña
品種:Pink Bourbon(ピンクブルボン)
プロセス:ALE Process(エールプロセス)
焙煎度:浅煎り(LIGHT ROAST)
値段:1,620円/100g
(1杯150mlで195円)
【販売者情報】TAKAMURA COFFEE ROASTERSとは?
TAKAMURA COFFEE ROASTERS(タカムラコーヒーロースターズ)は、大阪市西区江戸堀に本店を構える、ワインと自家焙煎スペシャルティコーヒーを扱う大型専門店です。運営はタカムラ株式会社で、ワイン約3,700アイテムに加え、シングルオリジン30種類以上のコーヒー豆を常時取り扱っています。大阪・江戸堀店と淡路島店の2店舗体制で、オンラインショップも展開しています。
お店のコンセプトは「ワインを選ぶように、コーヒーを選ぼう」。
ワインの産地・品種・造り手を選ぶ感覚でコーヒーを楽しんでほしいという姿勢が、品揃えや商品ページの情報量にそのまま表れています。Cup of Excellence(COE)入賞豆を常時複数扱い、浅煎り中心のラインナップなのも、スペシャルティコーヒー好きには嬉しいポイントです。
焙煎にはアメリカ製の全熱風式焙煎機Loring(ローリング)のS35 KestrelとS15 Falconの2台を使用し、豆本来の香りを繊細に引き出す設計です。ヘッドロースターは岩崎裕也さんで、Japan Coffee Roasting Championship(JCRC)2018年大会で2位、2024年大会ファイナリストと、日本有数のトップローストチームとして高い評価を得ています。
TAKAMURA COFFEE ROASTERSに関する情報
・大阪・江戸堀本店+淡路島+ECの3チャネル
・シングルオリジン30種以上・浅煎り中心
・Loring焙煎機2台体制・JCRC入賞のトップローストチーム
【一般的な特徴】ALEプロセス・ピンクブルボン・キンディオ県とは?

この豆を理解するには、「ALEプロセス」「ピンクブルボン」「キンディオ県」という3つのキーワードを押さえておくと、飲むときの楽しさが一段と増します。順番に解説していきます。
①ALEプロセス(エールプロセス)とは
ALEプロセスは、ビール醸造にヒントを得た発酵系の特殊精製です。業界で統一された正式用語というより、コロンビアのEdwin Noreña氏らが実践している発酵手法の総称に近い位置づけです。一般的には、コーヒーチェリーやミュシレージ(粘液質)をブリュワーズイースト(ビール酵母)とホップと一緒に発酵させることで、ホップ由来の柑橘・ハーブ・トロピカルフルーツ系アロマや、発酵由来の複雑な香味を豆に付与するのが特徴とされます。
②ピンクブルボン(Pink Bourbon)とは
ピンクブルボンは、コロンビア南部ウイラ県San Adolfo地区で、生産者Rodrigo Sanchez Valencia氏が2010年代前半に特定・普及させたとされる珍しい品種です。名前は成熟したチェリーが赤ではなくロゼ色(ピンク)で色づくことに由来しています。
長年「Yellow BourbonとRed Bourbonの自然交雑・変異種」と信じられてきたのですが、2023年にフランスのRD2 Vision社が5サンプルを解析した結果、ピンクブルボンはエチオピア原種(landrace)系統であり、Bourbonとは遺伝的に無関係であることが確定したと報告されています。名前に「ブルボン」と入るので混乱しやすいのですが、2026年時点では「近年の遺伝子検査でエチオピア原種系統と判明した品種」というのが最新の理解です。
風味の一般的な傾向は、フローラル、トロピカルフルーツ、紅茶系、柑橘、ストーンフルーツ(桃・ネクタリン)、ハニーといったキーワードで語られることが多い品種です。エチオピア系の華やかさに、コロンビアの厚みのあるボディが重なるイメージで捉えると分かりやすいと思います。
③キンディオ県(Quindío)とは
キンディオ県は、コロンビア中央部のアンデス山脈中央山系に位置する、国土面積の約0.2%しかない小さな県です。県都はアルメニア(Armenia)で、隣接するカルダス県・リサラルダ県と合わせて「Eje Cafetero(エヘ・カフェテロ/コーヒー三角地帯)」と呼ばれるコロンビア屈指のコーヒー産地を形成しています。
特筆すべきは、2011年にUNESCO世界遺産「コロンビアのコーヒー文化的景観」に登録された4県(カルダス・キンディオ・リサラルダ・バジェ・デル・カウカ)の一つであること。面積は小さいのですが、キンディオ県はマイクロロット志向が強く、Edwin Noreña氏のような実験的な発酵プロセスの先駆者が集まっている地域です。ピンクブルボンの本家はウイラ県ですが、今回のロットはキンディオ県というやや珍しい産地で栽培されたピンクブルボンです。
「コロンビア エールプロセス ピンクブルボン」の一般的な特徴
・ALEプロセス
ビール酵母+ホップで発酵させる特殊精製
・ピンクブルボン
エチオピア原種系統と判明した珍しい品種
フローラル/トロピカル/紅茶系の風味
・キンディオ県
UNESCO世界遺産のコーヒー文化的景観
マイクロロット志向の先駆的な産地
【ご紹介】TAKAMURA「コロンビア エールプロセス カンポエルモッソ」

ここからは、今回ご紹介するロットの詳細を見ていきます。生産者はEdwin Noreña(エドウィン・ノレーニャ)氏。農工学エンジニアとして訓練を受け、大学院でバイオテクノロジーを学んだ経歴を持ち、Qグレーダー資格とコロンビアCup of Excellence審査員(チーフジャッジ歴あり)としても活躍する、発酵研究の第一人者と言える生産者です。4代目のコーヒー農家として14歳で農園を相続し、「El Alquimista(錬金術師)」というマイクロロット用の個人ブランドでも知られています。
農園はキンディオ県Circasia(シルカシア)市のCampo Hermoso(カンポエルモッソ)。県都アルメニアから北へ数km〜8kmほどの距離にあり、ピンクブルボン・ゲイシャ・イエローブルボン・Cenicafé 1など多品種を栽培しています。水使用量削減・コーヒー残渣の肥料再利用・加工施設の太陽光発電化などサステナビリティにも力を入れている農園です。
| 焙煎所 | TAKAMURA COFFEE ROASTERS |
| 商品名 | コロンビア エールプロセス カンポエルモッソ |
| 産地 | コロンビア・キンディオ県 |
| 農園 | Campo Hermoso(カンポエルモッソ) |
| 生産者 | Edwin Noreña(エドウィン・ノレーニャ) |
| 品種 | Pink Bourbon(ピンクブルボン) |
| プロセス | ALE Process(エールプロセス) |
| 標高 | 1,650〜1,670m |
| 焙煎度 | 浅煎り(LIGHT ROAST) |
| 容量 | 100g〜 |
【RINKER挿入位置①:TAKAMURA コロンビア エールプロセス カンポエルモッソ(楽天)】
【レビュー】V60 4:6メソッドと浸漬式で飲み比べ
今回は、「コロンビア(エールプロセス)」をHARIO V60(透過式)とHARIOスイッチ(浸漬式)の2手法で抽出して、印象の違いを確かめました。
①今回試してみたドリップ手法
4:6メソッド(HARIO-V60ドリッパー)
考案者
粕谷哲さん(2016年ワールドブリューワーズカップ優勝者)
基本原理
お湯を「前半40%」「後半60%」に分けて、ベースのハンドドリップを作る。
- 基本は5回に分けてドリップ
- 前半40%で、 酸味・甘味を決める。
- 後半60%で、 苦味・コク・全体のバランスを調整する。
- 浅煎りは93℃、深煎りは83℃を目安に淹れる。
特徴
- お湯を数回に分けて「注ぐ量・回数・タイミング」で味をコントロールする。
- 調整しやすく、再現性が高い。
- ドリップの基本を学びながら、自分好みの味を作りやすい。

«粕谷哲さんによる紹介動画がこちら»
TETSU KASUYA World Brewers Cup Champion

浸漬ドリップ(HARIO-浸漬式ドリッパースイッチ)
考案者
粕谷哲さん(2016年ワールドブリューワーズカップ優勝者)
基本原理
ちょっと細かめな粒度のコーヒー豆を、温度を変えて、お湯に「浸ける」ことで、コーヒー豆の成分をしっかりと抽出する。
- 0〜30秒:90℃以上のお湯でドリップ(スイッチ開)
- 30〜1分15秒:90℃以上のお湯でドリップ(スイッチ開)
- 1分15秒〜1分45秒:92℃のお湯で残りの湯をドリップ(スイッチ閉止)
- 1分45秒〜3分:抽出(スイッチ開)
特徴:
- お湯を注いで、じっくり抽出。
- 成分が均一に抽出されやすく、丸みのある味になりやすい。
- 抽出時間の長さで味の濃さや苦味を調整できる。

«粕谷哲さんによる紹介動画がこちら»
TETSU KASUYA World Brewers Cup Champion

②ドリップで使った道具
共通
- ミル:コマンダンテ C40 MK4
- スケール:TIMEMORE Black Mirror Basic 2.0
- ケトル:Brewista
透過法で使った道具
- ドリッパー:HARIO V60 02
- ペーパーフィルター:専門フィルター
浸漬法で使った道具
- ドリップ:HARIO 浸水式ドリッパースイッチ 02
- ペーパーフィルター:専門フィルター

③コーヒー豆の準備

袋を開けた瞬間、ホップを思わせる華やかな香りとホワイトグレープのような甘い香りが立ち上がります。浅煎りの豆は茶色で約1cm、やや硬質な豆が混ざる印象で、コマンダンテのハンドルにもしっかり手応えがありました。挽いた直後は発酵由来の複雑な香味が広がり、柑橘〜ハーブ系の清涼感のあるアロマがキッチンに漂います。
④ドリップ準備(ペーパーリンス)

ペーパーをセットしてお湯でリンスします。紙の匂いを取りつつ、サーバーとドリッパーも予熱しておきます。
⑤ドリップ開始(蒸らし)

挽いた粉20gをドリッパーに入れ、軽くならして平らにします。粉面が水平だと抽出のムラが出にくくなります。
60gのお湯で45秒間蒸らします。中央にきれいなドーム状の膨らみができ、周縁にきめ細かい泡が立ちました。発酵プロセスらしい複雑な香りがふわっと立ち上がります。
⑥ドリップ(2投目)

45秒間の蒸らし後、合計120gまで注湯します。
この時点までは、透過法も浸漬法も同じ状態です。
⑦ドリップ(3投目〜ドリップ終了)

3投目から透過法と浸漬法で違いが出ます。
透過法は引き続き、60mlを3回に分けて、3投目で180ml、4投目で240ml、5投目で300mlまで注湯します。1投ごとにスケールで重量を確認しながら、中心から外へ「の」の字を描くように注ぎました。合計3分30秒前後でお湯が落ち切りました。
浸漬法は、スイッチを閉じて浸漬モードにした上で、74℃前後に調整したお湯を一気に300mlまで注湯し、約30秒の浸漬後にスイッチを開き、約3分前後でお湯が落ちきりました。
⑧2手法の飲み比べ

同じ豆・同じ湯温・同じ挽き目なのに、印象はかなり違いました。
透過法(V60)
華やかさとキレが主役。
発酵由来の個性をストレートに楽しむ仕上がり。
味わいは、淹れたてからホップを思わせる華やかなアロマがしっかり立ち上がります。
口当たりはクリーンで、シトラス〜ハーブ系の清涼感、ホワイトグレープを思わせる甘さ、発酵由来の複雑な香味がきれいに重なります。後味はキレがよく、余韻に軽やかな発酵感が残る印象です。少し時間をおくとフローラルなニュアンスが前に出て、冷めるとストーンフルーツのような果実感が濃くなり、まろやかさも増してきました。浅煎りの軽やかさが心地よく、飲み切るまでに表情が変わる一杯です。
浸漬法(スイッチ)
マウスフィールと飲み応えが主役。
発酵由来の強い個性が落ち着き、飲みやすさにまとまります。
味わいは、V60と比べて飲み応えのあるボディを感じます。淹れたては角の取れたマウスフィールで、ホップを思わせる香りは残しつつ、甘酸っぱさが前に出てバランスが良いと感じました。少し時間をおくと発酵由来の香味が穏やかに広がり、ホワイトグレープを思わせる甘さと余韻が長く続きます。冷めるとジューシーさが増し、ストーンフルーツのような果実感がマイルドに、紅茶系のニュアンスも顔を出しました。浅煎りとは思えないほど飲み応えのある一杯です。
比較結果
個人的には、今回は浸漬式のほうが好みでした。理由は、ALEプロセスのホップ由来の香味は十分に華やかで主張が強く、V60で淹れるとその強さがストレートに出るためです(ビール好きにはV60がおすすめ)。浸漬式はその強さを少しまろやかに受け止めてくれて、一杯をゆっくり味わうのに向いていると感じました。どちらのドリップ手法でも個性はしっかり楽しめるので、気分で使い分けるのも良いと思います。
共通して良かった点は、なんと言っても香りの豊かさです。ホップを思わせる華やかなアロマ、ホワイトグレープのような甘さ、発酵由来の複雑な香味が同時に楽しめるコーヒーはそうそうありません。浅煎りの軽やかさと相まって、飲み始めから飲み切るまで表情が変わり続ける点も、体験として豊かだと思います。2手法で淹れ比べると印象が大きく変わるので、抽出を変えて楽しみたい方にも向いています。
一方で気になる点も正直に挙げておくと、個性が強く万人向けのデイリーコーヒーではないこと。ホップの香りや発酵由来の香味は「コーヒーらしい味わい」を求める方には驚きの方向に振れる可能性があります。
【まとめ】ホップの華やかさとピンクブルボンの甘い余韻

今回は、TAKAMURA COFFEE ROASTERSの「コロンビア エールプロセス カンポエルモッソ」をHARIO V60(4:6メソッド)とHARIOスイッチ(浸漬式)の2手法で飲み比べてみました。Edwin Noreña氏が手がけるピンクブルボン×ALEプロセスの組み合わせは、他ではなかなか出会えない個性的な1杯だと思います。
個人的には、浸漬式(HARIOスイッチ)がおすすめです。ALEプロセス由来の強い個性が角の取れたマウスフィールで丸くまとまり、華やかさと甘酸っぱさのバランスが心地よく楽しめます。V60(4:6メソッド)はキレと華やかさがストレートに出るので、個性をダイレクトに味わいたい日に選びたい手法です。
発酵系プロセスに興味があるスペシャルティコーヒー中級者の方、ピンクブルボンという話題の品種を試したい方、コロンビア・キンディオ県の実験的な造り手に興味がある方に、ぜひ一度試してほしいコーヒーです。

